ボランティア活動による広域交流イノベーション推進研究会

わたしたちは北海道を舞台に、ボランティア活動でつながる広域交流にとりくんでいます。

『雪かきボランティアがもたらす地域社会イノベーション』

研究について

2014年9月20日から23日にかけて、雪氷研究大会(2014・八戸)が開催され、その中の企画セッションのひとつとして、雪かきボランティアがもたらす地域社会イノベーションについて討論が行われました。

■日時:2014年9月20日(土)15:30~17:00
■場所:八戸工業大学 210講義室(教養棟旧館)
■主催:日本雪工学会・日本雪氷学会会員有志
■趣旨:本企画セッションでは,さまざまな雪かきボランティアの実施事例を紹介しながら,それらの取り組みがもたらす地域社会への影響について議論しました.

■プログラム
●話題提供(各10分)
(1)平野部での大雪降雪と市民活動~前橋市大雪たすけあいセンターの活動から~
高山弘毅氏(前橋市社会福祉協議会)
平成26年2月、前橋市は観測史上最高73㎝の積雪量というこれまで経験したことのない大雪に見舞われました。そのような中で立ち上がった「前橋大雪たすけあいセンター」の奮闘記が高山氏より報告されました。大雪に苦戦するセンターに、東日本大震災の際にお手伝いをした豪雪地帯の社協仲間から続々と支援の手が届きました。災害はどこにでも起きます。そのための日頃からの顔の見える関係の構築の大切さについて発表されました。

(2)レスキューの雪かきから,地域活動を支える黒子へ
上島信一氏(北海道コカ・コーラボトリング 株式会社)
CSR(企業の社会的貢献)活動を推進する北海道コカ・コーラの上島氏より、除雪ボランティアの実践を通して起こった社員の変化について報告されました。清田区の大学生と協働で行った除雪ボランティア活動において、当初、活動の主体を担っていた社員が、徐々に大学生を支える側に変化していきます。その後、道内企業と連携して広域的な除雪ボランティアを三笠市で展開するようになり、社員が地域活動を支える黒子として存在することの大切さに気づき、行動するように変化していったことについて発表されました。

(2)「結」の精神でつかむ地域力
二藤部久三氏(尾花沢市除雪ボランティア センター/尾花沢市民雪研究会)
尾花沢市除雪ボランティアセンターの二藤部氏からは、広域的な雪かきボランティアの受け入れにより、地域が「受援力」を身につけていく過程とその実践が報告されました。ボランティアの受け入れを通して、大学生、企業、いろいろな人が尾花沢にやってきて、とうとう大人気のゆるキャラ「くまもん」もやってきます。地域の人にとっては日常の苦労でしかない雪かきで街に活気を生むという逆転の発想です。実践者が自ら楽しむこと、それが、新しい価値観や実践を生み出すことについて発表されました。

(4)よそからの雪かきボランティアが地域内共助を促進する可能性
中前千佳氏(一般社団法人北海道 開発技術センター)
倶知安町の琴和町内会では,地域内の除雪を自分達で行う「琴和ちょぼら除雪隊」が活動していました.平成25年冬に初めて札幌からの除雪ボランティアを受け入れ、共同で除雪作業を実施しました。それを機に、町長を中心に、このような共助の仕組みを他町内会でも導入するよう働きかけ、その結果、翌年、同町の六郷振興会において「六郷ちょボラ除雪隊」が発足しました。このように,広域的な除雪ボランティアの受入をきっかけに,受入れ側にも「地域内共助」を促進する変化が生まれる可能性があることが分かりました.

(5)「次,来るときまでしっかり話し合っておく」~「よそ者」の介入により目ざめる受援力~
小西信義氏(北海道大学大学院文学研究科)
炭鉱街として栄えた岩見沢市美流渡地区は、閉山後急激な人口減をもたらし、現在人口500人程度、高齢化率52%の街です。美流渡町内会では、札幌からの「よそ者(除雪ボランティア)」を受け入れることで、安全管理の問題、除雪の対象世帯の選定についての問題など、いろいろな課題に直面し、彼らに「受入疲れ」をもたらしました。「受け入れることは疲れる。でも、来年も雪は降ってくる。」そこで、美流渡の人びとは、納得し合えるまで話し合うことにしました。それが街の力、受援力につながっていく可能性があると、小西氏から発表されました。

(6)ヤクタタズがもたらした地域の変化
上村靖司氏(長岡技術科学大学)
平成18年豪雪をきっかけとしてはじまった越後雪かき道場は、雪かきボランティアの育成から地域社会イノベーションへと活動の使命を変化させていきました。よそからやってくるボランティアを「ヤクタタズ」だと思っていた地元の人達は、彼らを受け入れることにより、ボランティアの価値は、除雪を担う「機能」にあるのではなく、自分たちを認めてくれる「存在」そのものだということに気付いていきます。受動的な地域課題解決しかできなかった地域は、ボランティアの受け入れを経て、自立した地域へ変化していく可能性があることについて上村氏より発表されました。

●まとめ
諸橋和行氏(公益社団法人中越防災安全推進機構 地域防災力センター )
除雪ボランティアは、元々、豪雪地域の除雪に困っている人を助けようということで始まりました。しかし、実際に活動が始まると、ボランティアに来たその人に、新しい気づき、やりがいなど、想定外の効果、イノベーションが生まれます。それを受けて、今度は受入地域にイノベーションが起きます。新しいつながりが生まれたり、助け合いの組織が生まれたり、困難を乗り越えようとして話し合いの場が生まれます。その結果、地域の人たちが元気で前向きになっていき、地域の受援力、防災力が高まります。この担い手側と、受け入れ側のイノベーションが双方向で良い影響を及ぼし合い、これが除雪ボランティアの新しい仕掛けになっていくのではないかということを、諸橋氏にまとめて頂き、企画セッションの幕を閉じました。